外部依存から脱却するDX内製化戦略~成果を出す製造業に共通する5つの推進役割

2025年12月2日

DX内製化

DXを進めているはずなのに成果が出ない。プロジェクトは動いているのに現場は変わらない。気づけばコストだけが増え続けている。
こうした声は、中堅から大手の製造業で特に多く聞かれます。
外部ベンダー依存のシステム導入は進むものの、現場改善や組織変革に結びつかず、DX担当者が孤立して疲弊していく例は後を絶ちません。

DX内製化とは、外注費削減のためのプログラミング教育ではありません。
現場が自ら改善を回し続ける組織能力を獲得し、変化に強い企業へ進化するための経営戦略です。 本記事では、成果を出す製造業が必ず持つ推進体制の設計方法と、明日から現場で実践できるアクションを提供します。

目次

  • 意思決定の遅延・人材不在・目的の不一致 -製造業DXが前に進まない3つの構造要因-
  • DXとIT導入を区別する3つの基準 ~目的・成果指標・範囲で見極める
  • ベンダー任せDXの4つの罠 ~速度低下・要件ズレ・ノウハウ枯渇・現場不在
  • この5つの役割が揃えばDXは動き出す ~内製化を支える理想の配置図
  • 自走型DXへ移行する外部支援の使い方 ~技術・体制・教育をどう分担するか
  • 1ヶ月で育つDX人材 ~週次改善で組織を変える方法
  • 行動チェックリスト ~DX内製化を動かすための次のアクション

DXが前に進まない企業には、共通して三つの構造課題が存在します。

第一に、意思決定の遅延です。例えばある自動車部品メーカーでは、工程改善のためのデジタルツール導入に社長決裁まで四ヶ月を要し、その間に競合は同プロセスの改善を完了してしまいました。意思決定速度の差が、競争力の差となって表れます。

第二に、現場と経営の橋渡しができる人材が不在で、改善プロジェクトが空中戦となってしまう点です。現場は「忙しいから協力できない」、経営は「何を改善しているのか分からない」と温度差が生まれ、プロジェクトが進みません。

第三に、DXの目的認識が部門ごとに異なる状態です。経営は売上向上、現場は作業負荷軽減、情報システム部門は統制強化と、方向性が揃わず迷走するケースは非常に多く見られます。

属人的な判断と現場努力に依存した従来型組織では、変化のスピードに対応できません。DXの本質は、データを基盤に改善を自律的に回す組織をつくることにあります。 どの要因が一番のボトルネックか、経営と現場で一度同じ紙を見ながら話をしてみましょう。


DXが失敗する最大の原因は、DXを従来のIT導入と同じものだと捉えてしまう誤解です。

例えばある食品メーカーでは、在庫管理システムを刷新したにもかかわらず業務プロセスが旧来のままで、作業量は減らず最終的にExcel運用へ逆戻りしました。これはIT導入が目的化した典型例です。

DXとIT導入をわける3つの基準

基準1:目的が「効率化」か「ビジネスモデル・提供価値の変革」か

基準2:成果指標が「コスト削減」か「売上・粗利・リードタイム・顧客価値」か

基準3:対象範囲が「部門最適」か「全社・バリューチェーン最適」か

従来のIT導入は既存業務の効率化が中心で、成果は省人化やコスト削減に留まります。一方、DXでは価値提供プロセス全体の変革を目的とし、成果は競争力の向上と変化対応力です。DXはツール導入ではなく、経営戦略と組織文化の変革であり、部分最適ではなく全社最適に向けて推進体制の再設計が求められます。


外部ベンダーに完全依存したDX推進は必ず停滞します。

ある化学メーカーでは、現場改善のための小規模な修正依頼でさえ数十万円の追加見積と契約が必要となり、改善スピードが低下しました。その結果、現場は改善を諦め、「システムが変わるのを待つ」ようになってしまいました。

罠1:小さな改善でも見積と契約が必要になり、改善速度が極端に落ちる

罠2:業務理解が浅く、本質的な要件定義ができない

罠3:ノウハウがベンダーに蓄積され、社内に残らない

罠4:現場が「システム任せ」になり、自ら考える力が失われる

本来の内製化とは、担当者がプログラムを書くことではなく、課題発見から改善サイクルを回す力を組織に蓄積することです。


DX内製化に成功している企業には、役割が明確に分担された推進体制が存在します。

役割1:経営スポンサー:投資判断と優先順位を決める役割

  • 成果指標を定義し、全社に方向性を示す
  • 不在の場合:現場に丸投げされ、形骸化する

役割2:DX推進リーダー:推進ロードマップと体制設計を担う

  • 経営と現場の翻訳者として橋渡しする
  • 不在の場合:プロジェクトが空中分解する

役割3:業務プロセスオーナー:現場実態に基づいて改善テーマを設定

  • 成果責任者として現場を巻き込む
  • 不在の場合:現場の納得が得られず改善が止まる

役割4:IT・データ支援者:技術選定・変化に強い基盤設計を担当

  • 実行チームの技術支援とレビューを行う
  • 不在の場合:部分最適なツール選定で迷走する

役割5:現場改善メンバー:小さな改善を高速に回し、成功体験を作る

  • 組織に改善文化を根付かせる
  • 不在の場合:改善スピードが上がらず成果が生まれない

あなたの会社、5役割すべて埋まってますか。名前で言えるでしょうか。


内製化はすべてを自社で実行することではありません。外部パートナーを適切に活用することで内製化は加速します。

技術選定やアーキテクチャ設計、レビューや教育、初期立ち上げ期のスピード確保などは外部が担った方が効果的です。一方、改善テーマの設定や目的の言語化、要件整理と意思決定、運用と改善サイクルの維持といった本質領域は社内が担うべきです。

外部を丸投げ先ではなく、内製化を支援する伴走者として位置付けることが重要です。


DX人材は座学だけでは育ちません。学習と共に、実務改善の繰り返しこそ最も強力な育成手段です。

あるメーカーでは、週次で1時間の改善ミーティングを行い、改善案を翌週までに試す取り組みを実施したところ、わずか1ヶ月で改善提案数が10倍に増加しました。内製化の目的と成功基準を明確にし、小さなテーマから改善サイクルを回し、成果を共有するプロセスこそが文化形成のスタートです。


DXはシステム導入ではありません。内製化は外注費削減施策でもありません。外部依存では競争力は積み上がりません。自ら考え改善を続けられる組織こそが未来の競争優位の源泉です。

DX内製化とは、変化に強い自走する組織を構築するための経営戦略です。


以下は、今日から実践できる具体的行動です。
記事を読み終えた今、まず次の5つの行動に着手しましょう。

  1. DXの目的を一枚にまとめる
    • 売上向上、リードタイム短縮、人材育成など、自社としてのDXの目的を明確な言葉にし、経営・現場・IT部門で共有する時間を設定する。
    • 30分でタタキを作成しましょう。完璧さは不要。まず言語化して共有することがスタートです
  1. 改善テーマを一つに絞る
    • 「全体最適」を掲げる前に、小さな現場課題を一つ選び、1ヶ月で改善するテーマを確定させる。テーマは数字で測定できるものにする。
  1. 推進体制の役割を明確にする
    • 経営スポンサー、DX推進リーダー、業務プロセスオーナー、IT支援者、現場改善メンバーの5つの役割を明文化し、担当者を名前で設定する。
    • 想定で決めてもOK。具体化することが大事です。
  1. 週次改善ミーティングを固定する
    • 15〜30分の短い改善レビュー会を毎週固定し、改善テーマの進捗を確認する場を作る。会議参加者は必要最小限に限定する。
    • 今すぐ設定を。有志2人から始めてもよいでしょう。
  1. 外部支援の活用目的を決める
    • 外部に依頼する理由を「作業代行」ではなく「自走力の獲得」と明確にし、伴走支援の活用検討を始める。最初のステップとして、現状整理と推進体制設計の壁打ちミーティングを設定する。

製造業向けDX伴走支援サービスWithGrowでは、企画設計から実行、教育、体制構築までを伴走型で支援します。五つの推進役割が揃う体制を設計し、改善サイクルが社内に根付く仕組みを構築します。

DX内製化を現実的かつ確実に前進させたい企業は、ぜひお問い合わせください。