IT部門に相談すれば「現場が要件を出してくれない」と言われ、現場に聞けば「IT部門はなにもしてくれない」と返される。製造業のDXプロジェクトが停滞する現場では、この光景が繰り返されています。
問題の本質は、最新のテクノロジーが足りないことでも、予算が不足していることでもありません。ITの言葉と現場の言葉の両方を理解し、その間を橋渡しできる人材が社内にいないことです。
WithGrowが数多くの製造業を支援してきた経験から言えるのは、この「通訳者」を1人育てるだけで、ベンダーとの力関係が変わり、プロジェクトの進み方がまるで違ってくるということです。本記事では、通訳者不在がもたらす具体的な弊害と、社内に通訳機能を育てるための実践的な3ステップを解説します。
・PLMはPLM、MESはMESで「孤立した島」が乱立する~ベンダー提案を評価できない組織が陥る罠
・情シスは保守で手一杯、推進室は兼任で空回り、交渉役は1人だけ~通訳者がいない会社の3パターン
・年収1,000万円のIT人材を採用するより、現場の1人を通訳者に育てるほうが早い~外部の知見を内製化する3ステップ
・通訳者を1人育てることがDX自走への最短距離
・WithGrowが「ITと現場の通訳者」育成を伴走します
PLMはPLM、MESはMESで「孤立した島」が乱立する~ベンダー提案を評価できない組織が陥る罠
「優秀なシステム」ばかり導入して「使えないIT基盤」ができあがる構造
ある大手製造業では、PLM、MES、生産管理システムなど複数のシステム導入を同時並行で進めていました。しかし、各システムの導入をそれぞれ別のベンダーに依頼した結果、PLMはPLMの中で、MESはMESの中で最適化された「孤立した島」が乱立する事態に陥りました。
各ベンダーは自社の得意領域を最大限にアピールしますが、他のシステムとの連携や将来的な拡張性までは考慮しません。横断的に評価できる人材が社内にいなければ、「個々のシステムは優秀だが、全体として機能しない」という矛盾が生まれるのは当然のことです。
「大した保守もしていないサービスに高額を払い続けていた」という現実
導入したシステムの中身が社内の誰にも理解できない、いわゆる技術のブラックボックス化も見過ごせません。データ構造やシステムの設定ロジックがベンダーにしかわからない状態が続くと、改修のたびにベンダーの言い値を受け入れるしかなくなります。
ある企業では、実質的な保守がほとんど行われていないサービスに高額な料金を支払い続けていましたが、社内に指摘できる人材がおらず長期間気づきませんでした。ベンダーとの力関係を対等に保つには、技術の中身を理解し、質問を投げかけられる人間が社内に最低1人は必要です。
情シスは保守で手一杯、推進室は兼任で空回り、交渉役は1人だけ~通訳者がいない会社の3パターン
パターン1:情シスが「守り」に埋もれて「攻め」に回れない
ある中堅製造業では、システムチームの日常はサーバー保守、PC管理、資産管理といった守りの業務が中心で、DXのような攻めのプロジェクトに割く余力がありませんでした。企画部門がDX推進を掲げても、具体的な案件が動かないまま時間だけが過ぎていたのです。
このパターンでは、情シスに通訳者の役割を期待しても時間がありません。既存業務の負荷を下げるか、別の人材に通訳機能を持たせるかの判断が先になります。
パターン2:DX推進室を「作っただけ」で安心してしまう
DX推進室を立ち上げたものの、少人数の兼任メンバーで回している企業は多くあります。ある企業では各部門がバラバラにベンダーと交渉を始め、全体を統括する役割を誰も担えない状態でした。推進室のリーダー自身が「調整役がいないと回らない」と認めるほどです。
兼任体制では、通常業務に追われてDXの優先度がどうしても下がります。「推進室を作ればDXが進む」という思い込みこそが、最大の落とし穴です。
パターン3:ベンダー交渉できる人材が1人だけ。その人が休んだら終わり
ある企業では、ITベンダーと対等に交渉・評価できる人材が社内にたった1人しかいませんでした。その人物に業務が集中し、不在になればベンダーの言いなりになるリスクを常に抱えていました。
1人の優秀な人材に依存する体制は、その人がいる限りは回ります。しかし組織としての持続可能性がありません。通訳機能は個人のスキルではなく、組織の能力として定着させなければ意味がないのです。
年収1,000万円のIT人材を採用するより、現場の1人を通訳者に育てるほうが早い~外部の知見を内製化する3ステップ
ITと製造の両方に精通した人材を中途採用で確保するのは、現実にはかなり難しいことです。市場にそのような人材は希少ですし、採用できても自社の現場を理解するまでに時間がかかります。通訳者は外部から連れてくるものではなく、自社の中で育てるものです。
通訳者に最も向いているのはIT出身者ではなく、現場を10年知るベテラン
WithGrowの支援経験から見えてきた「秘密」をひとつお伝えします。通訳者に最も向いているのは、IT畑出身の人材ではなく、現場で長年働いてきたベテラン社員です。
現場の業務フローや暗黙のルールを肌で知っている人間にITの基礎知識を足すほうが、ITの専門家に現場感覚を教え込むよりはるかに早い。「この工程ではなぜこの手順が必要なのか」を体で理解している人がいれば、ベンダーへの要件伝達の精度がまるで変わります。
ステップ1:まずは次のベンダー会議に外部の専門家を1人同席させる
最初のステップは、ITと現場の両方を理解する外部の専門家を、ベンダーとの打ち合わせに同席させることです。専門家がベンダーの技術用語を現場の言葉に「翻訳」し、逆に現場の要望を技術要件に変換する。このプロセスを社内メンバーに間近で見せること自体が、最も効果的なOJTになります。
ある中小企業では、「仕様書」「データベース」といった用語すら社内に通じず、ベンダーとの会話が成立していませんでした。外部の専門家が通訳として間に入ったことで、初めて自社の要望をシステムに反映できるようになりました。この企業が最も強く求めたのは、高度なAI技術ではなくベンダーとの通訳機能そのものだったのです。
行動の第一歩はシンプルです。自社のベンダーとの次の打ち合わせに、外部の人間を1人同席させてみてください。それだけで、今まで見えなかった会話の「ズレ」が浮き彫りになります。
ステップ2:RFPやベンダー評価を「代行」ではなく「共同作業」で進める
次のステップは、外部の専門家に任せきりにするのではなく、一緒に手を動かすことです。提案依頼書(RFP)の作成、見積もり評価、技術選定の判断基準の設計といった上流工程を、社内メンバーと外部専門家が並走して進めます。
この過程で重要なのは、外部の専門家が判断の「根拠」を逐一言語化することです。なぜこの提案が妥当なのか、なぜこの見積もりは割高なのか。思考プロセスを共有することで、社内メンバーの目利き力が着実に上がっていきます。
ここにもうひとつの「秘密」があります。RFP作成を社内メンバーと共同で進めると、ベンダー側の提案の質まで上がるのです。発注者が何を求めているかが明確に伝わるため、ベンダーもピントの合った提案を出せるようになる。通訳者を育てることは、ベンダーとの関係そのものを改善する効果があります。
ステップ3:あえて100万円以下の小さな案件で、社内メンバーに判断を任せてみる
最後のステップは、特定の工程や部署に絞った小規模なDXプロジェクトで、社内メンバーが主体的に意思決定する経験を積むことです。外部の専門家は「主役」から「相談役」にポジションを移し、社内メンバーが自らベンダーと折衝し、仕様を決め、導入判断を下します。
成功の鍵は、組織として学習時間を確保するコミットメントにあります。ある製造業では、経営トップが対象メンバーの業務時間の20%をDXプロジェクトに充てることを約束しました。この組織的な後ろ盾が、教育の定着と通訳者の育成を大きく後押ししています。
WithGrowの経験では、この3ステップを踏めば、おおよそ6ヶ月で社内に通訳機能が根づき始めます。そしてベンダーとの交渉コストが平均で2~3割下がるケースも珍しくありません。通訳者の育成は、投資対効果の非常に高い施策です。
通訳者を1人育てることがDX自走への最短距離
製造業のDXが停滞する原因は、テクノロジーではなく「人と組織」の問題です。ITと現場の間に立つ通訳者が1人育てば、ベンダーとの力関係が変わり、システム導入の精度が上がり、技術のブラックボックス化を防げます。そしてその通訳者が次の通訳者を育てることで、組織のDX推進力が持続的に高まっていきます。
まずは、次のベンダーとの打ち合わせに、外部の専門家を1人同席させること。そこから始めてみてください。
WithGrowが「ITと現場の通訳者」育成を伴走します
株式会社CAC identityのWithGrowは、製造業の現場がITベンダーと対等に向き合い、自らの手でDXを推進できる体制を構築するための伴走支援パートナーです。
WithGrowが紹介するプロフェッショナル人材は、単にシステムを作る技術者ではありません。貴社の製造現場に入り込み、ベンダーとの会議に同席し、技術の言葉と現場の言葉を翻訳しながら、社内メンバーに判断力とノウハウを移植していきます。私たちのゴールは、貴社の中にITと現場を橋渡しし、DXを自ら推進し続けられるチームが誕生することです。
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