「営業や経理はもうペーパーレスになったのに、工場だけは相変わらず紙の日報を書いている」。そんな声を、DX推進を担当する方々から頻繁に耳にします。
本社機能のDXは比較的スムーズに進む一方で、製造現場は後回しにされがちです。その結果、社内に深刻な”DX格差”が生まれ、組織全体の生産性向上を阻んでいます。
本記事では、なぜ製造現場だけが取り残されるのかを構造的に整理し、格差を埋めるための3つの設計原則をお伝えします。
・SaaSで翌月から変わる本社、設備連携で半年かかる工場~DX格差の正体
・言語の壁、省力化の罠、孤軍奮闘~製造DXを止める3つの構造的原因
・「デジタルに詳しい人」より「課題を言葉にできる人」を選べ~格差を埋める3つの設計原則
・まとめ~まず「課題を語れる人」を3人リストアップすることから
・WithGrowが提供する製造DX伴走支援
SaaSで翌月から変わる本社、設備連携で半年かかる工場~DX格差の正体
本社部門のDXが先行する理由はシンプルです。事務・営業系の業務はSaaSの導入やRPAの適用がしやすく、デジタル化の効果が目に見えやすい。クラウドツールを入れれば翌月から業務フローが変わる、という成功体験を積みやすい構造にあります。
一方、製造現場には特有のハードルが存在します。OT(制御系)との連携が必要であること、安全基準や品質管理との整合性が求められること、そして何より「現物中心の文化」が根強いことです。デジタルツールを導入しても、現場の作業手順と噛み合わなければ定着しません。
ある中堅メーカーでは、本社の管理部門や営業部門では業務ツールのクラウド化が一巡していました。一方で、製造を担うグループ会社側は事情が異なります。現場から「ITへの抵抗感が少ない」メンバーを選抜してDX推進チームを立ち上げたものの、デジタル技術の専門教育を受けたわけではないため、何を優先すべきかの見通しが立たず、手探りの状態が続いていたのです。
こうした構造は、業種を問わず繰り返し目にします。本社と現場の間にDX格差が広がるのは、特定の企業に限った問題ではありません。
言語の壁、省力化の罠、孤軍奮闘~製造DXを止める3つの構造的原因
では、なぜ製造現場のDXは停滞するのか。支援の現場で繰り返し見えてくる原因を、3つに整理します。
IT部門と製造部門の「言語の壁」~通訳不在が生む膠着
1つ目は、IT部門と製造部門の間にある言語の壁です。
ある素材メーカーでは、本社にIT部門を構えていたものの、そのメンバーは情報系出身が中心で、工場特有の生産設備や品質管理プロセスの実態には明るくありませんでした。IT部門から提示される改善案が現場の運用と噛み合わないケースが重なり、両者の間に距離が生まれていたといいます。
この「通訳不在」の状態を放置すると、IT部門は「現場が要件を出さない」と感じ、現場は「IT部門は現場をわかっていない」と感じる、という相互不信のループに陥ります。最初に必要なのは、システムの導入ではなく、双方が同じ言葉で課題を語れる場をつくることです。こうした場を「翻訳セッション」と呼ぶことがあります。外部のプロ人材がファシリテーターとなり、IT側と現場側が同じテーブルで課題を棚卸しする。支援の初期段階でこの場を設けるだけで、双方の距離が大きく縮まるケースは少なくありません。
RPA止まりで次に進めない~省力化偏重の罠
2つ目は、省力化偏重の罠です。
多くの製造現場では、DXの取り組みが紙の電子化やRPA的な自動化にとどまっています。先の中堅メーカーでも、生産実績管理の自動化や在庫管理システムの改善には着手していたものの、データ分析やAI活用は「まだ検討段階」という状態でした。
省力化は確かに重要な第一歩ですが、そこで歩みを止めてしまうと、本社部門がデータドリブンな意思決定へと進化していく中で、製造現場との格差は開く一方です。見落とされがちなのが、「省力化で浮いた時間の使い道」まで設計しておくことです。浮いた30分で日報を書くだけなら、次のステージには進めません。浮いた30分で「設備稼働データを見る習慣」をつくるところまでが、最初のDXプロジェクトのゴールです。
旗振り役が1人で抱え込む~推進者の孤立が生む拠点間格差
3つ目は、推進担当者の孤軍奮闘です。
ある大手メーカーでは、複数の拠点それぞれにDX推進の旗振り役を置き、現場主導での改善を促していました。ところが、旗振り役の知識やスキルには当然ばらつきがあり、本社の推進部門がすべての拠点をフォローしきれるわけでもありません。結果として、積極的に動ける拠点とそうでない拠点の間で、取り組みの進み具合に開きが広がっていきました。
推進担当者が1人で全てを抱え込む構造では、その担当者が異動や体調不良で不在になった瞬間に、DXの推進が完全に止まるリスクも抱えています。
「デジタルに詳しい人」より「課題を言葉にできる人」を選べ~格差を埋める3つの設計原則
こうした構造的な問題を乗り越えるには、個人の頑張りではなく仕組みで解決するしかありません。ここでは、支援の現場で効果を上げてきた3つの設計原則を紹介します。
ITリテラシーより「言語化力」で選ぶ~非IT人材が主役になる理由
特命チームに必要なのは、ITの専門家だけではありません。むしろ、製造現場の業務を熟知した非IT人材こそが主役です。
現場の業務フローを深く理解し、「ここが非効率だ」「この情報が手に入ればもっと早く判断できる」と具体的に言語化できる人材がいなければ、どんなに優れたデジタルツールも定着しません。
チーム編成で効果的なのは、メンバー候補を「不満を具体的に語れるかどうか」で見極めることです。「なんとなく不便」ではなく、「この帳票を毎朝3枚手書きしていて、同じ数字を基幹システムにも入力し直している。二重入力をなくしたい」と言える人。その人こそが、DXプロジェクトを動かすエンジンになります。ITリテラシーは後から育てられますが、現場の肌感覚は外から持ち込めません。
日本企業の8割がDX人材不足、社内だけで回す限界~外部プロとの”ペアリング”が成果を変える
2つ目の原則は、社内だけで完結させないことです。
IPAの「DX動向2025」によれば、日本企業の8割超がDX推進人材の不足を訴えており、米国やドイツと比較して突出して高い水準にあります。人材が足りないなかで社内育成だけに頼るのは、時間的にもリソース的にも無理があります。
一方、東京商工会議所の「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査」(2025年)では、外部人材やリソースを活用していない企業が依然として4割に達しています。興味深いのは、デジタル活用のレベルが高い企業ほど外部パートナーを積極的に活用しているという点です。同じくIPAの調査では、DXで成果を出している企業は社内育成と外部活用を組み合わせている割合が高いことも示されています。
つまり、外部人材の活用は「人が足りないから仕方なく頼る」という消極的な選択ではなく、成果を出すための前向きな設計判断なのです。
効果を上げやすいのは、外部プロ人材と社内担当者の「1対1ペアリング」です。たとえば週1回のオンラインミーティングと、必要に応じた現場同行を基本形とし、最初の1ヶ月で現場課題の棚卸しと優先順位づけを完了させるような進め方が考えられます。重要なのは、外部人材に丸投げするのではなく、あくまで社内担当者が主体的に動き、外部人材はその伴走者として知見を提供する形をとること。この方式であれば、支援終了後も社内にノウハウが残ります。
隣のラインの成功が最強の説得材料~1工程から始めるスモールDX
3つ目の原則は、スモールDXから始めることです。
製造現場は「失敗が許されない」文化が根強く、大規模なシステム導入には慎重になりがちです。だからこそ、まずは1つの工程、1つのラインに絞って小さなデジタル改善を実行し、目に見える成果を出すことが大切です。
最初の改善対象として取り組みやすいのは、「記録・報告系の業務」です。日報、チェックシート、検査記録など、毎日繰り返される手書き作業は、デジタル化の効果が最も実感しやすい領域です。しかも、生産設備への影響がないため導入リスクが低く、現場の心理的ハードルも下がります。
「あの工程で紙の記録がなくなって楽になった」という現場の実感が、次のDX施策への賛同を生み出します。トップダウンの号令だけでは動かない現場も、隣のラインの成功事例には素直に耳を傾けるものです。
まとめ~まず「課題を語れる人」を3人リストアップすることから
本社と製造現場のDX格差は、現場の意欲の問題ではなく、構造の問題です。IT部門と現場の言語の壁、省力化偏重のアプローチ、推進担当者の孤軍奮闘。これらの構造的原因を解消するには、「非IT人材を主役にする」「外部プロ人材とペアリングする」「1工程から始める」の3原則に基づいたチーム設計が有効です。
明日からできる最初の一歩は、製造現場で「自分の業務の非効率を具体的に語れる人」を3人リストアップすることです。その3人が、御社の製造DXを動かすエンジンになります。
WithGrowが提供する製造DX伴走支援
株式会社CAC identityのWithGrowは、製造業の現場が自らの手でDXを推進し、内製化を完遂するための伴走支援パートナーです。製造業DXの経験が豊富なプロフェッショナル人材が現場に密着し、課題の棚卸しから優先順位づけ、スモールDXの実行、そしてチームが自走できる状態になるまでをサポートします。
私たちのゴールは、外部に依存し続ける組織をつくることではありません。「自ら改善し続けられるチーム」が社内に誕生することこそ、WithGrowが目指す成果です。
ご相談・お問合せはこちら。