DX推進を情シスに任せてはいけない理由~攻めと守りを分けた企業だけが前に進める体制設計の実践法

2026年3月31日

DX推進を情シスに任せてはいけない理由~攻めと守りを分けた企業だけが前に進める体制設計の実践法

「DXを推進したいが、情シスに頼むと嫌がられる」「DX推進室を作ったが、実態は改善要望の受付窓口になっている」。製造業の企業と対話する中で、こうした悩みを打ち明けられる場面が増えています。

情シス部門はサーバーメンテナンス、PC・資産管理、基幹システムの保守といった守りの業務で日常が埋まっています。その部門に「攻めのDX」まで求めるのは、そもそも構造的に無理があります。攻めのDXは誰がどう担うのか。本コラムでは、商談の現場から見えてきたリアルな課題と、体制構築の選択肢を整理します。


守りの業務は止めたら事業が止まる——情シスにDXを求める構造的な無理

ある化学メーカーでは、システムチームが日々こなしている業務の大半が、基幹システムの保守運用、サーバーの管理、社内PCの手配・管理、ネットワークトラブルへの対応でした。企画部がDX推進の旗振り役を担っていたものの、最近はシステム関連で新たな動きが止まっている状態だったといいます。

現場から改善要望が上がれば対応するが、自ら攻めの施策を打ち出す余裕はない。Power Automateの学習会を実施し一定の成果は出ていたものの、それ以上の踏み込みは停滞していました。

こうした状況は珍しくありません。多くの中堅企業で、情シス部門は基幹システムからインフラまで、社内ITの安定稼働を守る番人として機能しています。止めれば即座に事業に影響が出る仕事を毎日こなしている人に、「ついでにDXもやってほしい」と言っても対応する余白がないのは当然のことです。

実際に多くの企業の現場を見てきて感じるのは、守りのITを安定させることと、攻めのDXを推進することは、本来まったく別の仕事だということです。にもかかわらず、多くの企業がこの2つを同じ部門に担わせようとしている。これがDXの停滞を生む構造的な原因の一つです。


DX推進室が「受付窓口」で終わる企業には、攻めと守りの調整役がいない

「うちはDX推進室を立ち上げました」という企業も少なくありません。ただ、実態を聞くと、看板と中身にギャップがあるケースが目立ちます。

ある精密部品メーカーでは、DX推進室が設立されて2年が経っていました。しかし担当者の役割は、改善要望を受け付ける窓口として機能することが中心でした。情シスとDX推進は別組織として存在していたものの、主体的にプロジェクトを企画・推進する体制にはなっていなかったのです。

1年目に社員教育を実施し、参加者のスキルアップの実感はあったといいます。しかし、日常業務に追われる中で、学んだことを現場で活用しきれない状況が続いていました。看板だけのDX推進室は、人を置いても権限と時間がなければ動けません。

もう一つ、推進室が機能しない企業に共通する特徴があります。それは、情シスとDX推進室の間で攻めと守りのバランスを取りながらコーディネーションできる人材がいないことです。複数の企業を見る中で気づいたのは、攻めのDXがうまく回っている企業には、守りのIT運用の制約を理解しつつ、現場の課題を推進施策に落とし込める「調整役」が必ず存在していることでした。情シスの事情も現場の温度感もわかった上で、全体の優先順位をさばける人物が、両者をつなぐ接着剤の役割を果たしているのです。

この調整役がいない企業では、守りの情シスと攻めの推進室がそれぞれ孤立し、どちらも十分に機能しません。この調整役を既存の社員が担えるならベストですが、そもそもそうした人材がいないからこそ推進が止まっている企業がほとんどです。その場合は、外部から調整役を借りるという発想も有効な選択肢になります。


Salesforce、Kintone、次は何——ツールが「上から降ってくる」企業のDX疲れ

体制の問題に加えて、もう一つ現場を混乱させる要因があります。経営層からのトップダウンによるツール導入です。

ある電子部品メーカーでは、Salesforceが導入されていましたが、低グレードのプランだったため必要な機能がオプションで高額になり、十分に活用できていませんでした。過去にはKintoneも別部門が導入を試みたものの、当初は管理者が厳しすぎて使いこなせず、その後ルールを緩めたら今度は無秩序に使われて収拾がつかなくなり、最終的に中止に至ったといいます。

上層部から突然ツールが降ってくる。各部門のニーズとのマッチングが検討されないまま導入が決まる。この繰り返しは、現場の「また新しいツールか」というDX疲れを加速させます。

断言できるのは、現場課題の棚卸しをせずにツールを入れた企業は、ほぼ例外なく同じ失敗を繰り返すということです。この「ツールより先に課題の特定」という原則については、「AIを使え」と言われたら業務の棚卸しから始めよでも詳しく解説しています。ツール導入の前に課題の洗い出しと優先順位付けを行う「前さばき」がないまま走り出すことが、DX失敗の典型的なパターンです。ツールは課題を解決する手段であって、ツールを入れることが目的ではありません。この順番を間違えている限り、何を導入しても定着しません。


作るか、広げるか、借りるか——攻めのDX体制、3つの選択肢と失敗パターン

守りの情シスとは別に、攻めのDXを誰が担うのか。商談の現場から見えてきた3つの選択肢を整理します。

選択肢1:社内に専任チームを新設する

DX推進室や新規事業推進部など、専任組織を立ち上げる方法です。社内の業務プロセスを熟知した人材が推進するため、現場との摩擦が少ないのが利点です。

失敗パターン: 専任チームに配属される人材が「ITに少し詳しい人」というだけで選ばれると、結局は御用聞きの窓口になりがちです。また、通常業務との兼務では時間が確保できず、学んだことを実践に移せないまま停滞します。うまくいった企業に共通するのは、現場の管理職がDX推進のための業務時間を明確に確保する約束をしたことでした。人を配置するだけでなく、組織として「この時間はDXに使う」と決めるコミットメントが不可欠です。

選択肢2:既存部門の役割を拡張する

情シスや経営企画など、既存部門の守備範囲を広げてDX推進を担わせる方法です。新たな組織を作るコストがかからず、既存の意思決定ラインを活用できます。

失敗パターン: 守りの業務で手一杯の部門に攻めを兼務させるのは無理が生じます。ある金属加工メーカーの担当者は「内部で課題が行き詰まったとき、視野が狭くなる」と語っていました。多くの現場で繰り返し目にするのは、守りと攻めの両方を同じ部門に背負わせた会社ほど、どちらも中途半端になるという構図です。まず守りを安定させてから攻めに出る、この順番を間違えると、既存業務もDXも共倒れになります。

選択肢3:外部のプロ人材を活用する

DXの経験を持つ外部のプロフェッショナル人材に伴走してもらう方法です。必要な期間、必要なスキルを持つ人材に参画してもらえるため、固定費を抑えながら推進力を得られます。

失敗パターン: 外部人材への丸投げは失敗の元です。ある精密部品メーカーでは、過去に時間ベースの契約で外部人材を受け入れたものの、期待した成果物が完成しなかった経験がありました。外部人材を入れたのに成果が出なかった企業の多くに共通していたのは、受け入れ側に「目利き役」がいなかったことです。外部人材が何をしているか、その進め方が正しいかを評価できる人間が社内にいなければ、期待値のすれ違いが起き、「高い勉強代を払っただけ」で終わるリスクがあります。


まず情シスの業務を1週間記録してみる——攻めのDX体制を設計する出発点

3つの選択肢はどれも一長一短があり、自社の状況によって最適解は異なります。しかし、どの選択肢を取るにしても、最初にやるべきことは共通しています。

それは、情シス部門の業務を1週間でよいから記録してみることです。守りの業務にどれだけの時間が費やされているか、攻めの施策に使える余白はどの程度あるのか。この事実を可視化するだけでも、「DXは情シスに任せておけばいい」という認識がいかに無理のある話だったかが見えてきます。記録した結果、守りの業務が8割以上を占めていたなら、攻めのDXは別の器で担うべきだと判断できます。

その上で、自社の課題を第三者の目で棚卸しする。「これは前からこうだった」「うちの業界では仕方ない」という思い込みが、本質的な課題の発見を妨げます。外部の視点を入れて課題を言語化し、優先順位を付け直す。そこから初めて、自社に合った推進体制を設計できるようになります。

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WithGrowが提供する「攻めのDX」の伴走支援

株式会社CAC identityのWithGrowは、製造業の現場が自らの手でDXを推進し、内製化を完遂するための伴走支援パートナーです。

情シスに過度な負荷をかけず、かつ外部に丸投げにもしない。WithGrowでは、DX推進の経験豊富なプロフェッショナル人材が現場に密着し、課題の棚卸しから体制構築、実行支援までを一貫してサポートします。ゴールは、外部の力に依存し続けることではなく、自ら改善し続けられるチームが社内に誕生することです。

「攻めのDXを誰に任せるか」で悩んでいるなら、まずはお気軽にご相談ください。

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